「私、ヒロインじゃなくてヒーローになりたかったの」
「…篠岡らしいって言って欲しい?」
「別に答えが欲しいわけじゃないよ、只こうしてボール磨いてると時々思い出すの」
「ヒーローになりたかったって?」
「照りつける太陽と反射するバット、汚れた白球の似合う勇者。足が速くて、背が高いのがいいな」
「かっこいいね」
「勿論」
「過去形なのはなんで?もういいんだ?」
「夢には限界があるから、只忘れられないだけで」
「確かに、サンタにも頼めないよな」
「信じてるの?」
「まさか」
「訂正、信じてた?」
「………サンタが現れるのは子供までだけどね」
「じゃあ私も秘密をひとつ、私も信じてたよ」
「ヒーローにしてくださいって頼んだの?」
「うん。ほら、プレゼントを願うカードあるじゃない。あれを見た時の親の顔が忘れられない」
「可愛い愛娘が実は男になりたかったって言えばそりゃな。でも願ってたんならしょうがない」
「水谷くんは?何を願ったの?」
「俺はどっちかつーと欲しい物ばかり書いたよ。普通に。ゲームだったり、食べ物。夢はなかったから」
「そうなんだ…」
「ありきたりな考えばっかだったかさ。昔は、何かなりたかったものあった気がするけどね」
「…運動場が好きだったの。踏みしめた時の砂の感触とか、皆の声とか、ね。走ってたり、ボール蹴ってたり、見ているだけで幸せだった」
「体育祭とかの歓声とか、皆が一致団結した瞬間とか?」
「青空、雨空、夏の日差し、冬の木枯らし。でも」
「でも?」
「野球をしてる皆を見ているは、羨ましかった。見てて幸せだったけど、本当は私もそこに立ちたかった」
「…ベタな事を言えば、篠岡が女の子で良かったよ。俺等はね」
「そう?」
「そう、篠岡がマネージャーで良かったからさ。」
「…もう」
「あはは」
「………私は果報者なんだろうなぁ」
「まだまだ人生は長いですよマネージャー」
「本当にね」
「俺達だって、まだ子供なんだからさ」
「…まだまだ、ね」







子供が語る夢物語とは