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 ばれちった!軽やかに暴露した我が野球部の四番は、気持ちのいい笑顔でそう言ってのけた。あまりの事に主将は口を開けたまま呆けるし、水谷でさえ眼を丸めていた。ばれたとはあれか、俺たちが休日に篠岡が草刈に来ていないか確かめている事か?それとも俺たちが痴漢(に合いかけた)のを見てしまったことか?静かにそう尋ねると、これはまた良い笑顔で全部と言い切った。全部?!
「おまえは何やってるんだーー!!」
 花井の怒号が屋上を満たした。がちゃんと少々乱暴に水筒を置き、息継ぎもろくにないまま花井は田島を叱り付けたが、誰もそれを止める気にはならない。しかも当の本人はその双眸を少し丸くしているだけだ。しかし田島が俺らを昼休みに屋上へ誘導したのは、多分良い判断だと言えよう。怒鳴られることを見越していたのなら良い性格だと褒め称えるぜ。感の良い動物のようだ本当。寒空の下で昼食を取る事になったのはまあ許すとしても、一体どうしたものかと頭を捻らせた。隣で水谷が躊躇う様に声を上げるふたりを見ていたのも無視だ。さてとどうするか、篠岡に限ってないとは思うがストーカーだと罵られるか?こちらが良かれと思ってい相手もそうだとは限らない。そもそも俺は本人の性格を優先しろと言ったんだ、偶然何かありそうなら助ければ良い。護ればいいだろう。むしろあいつはこういった行動で、俺等が余計な労力を使う方が怒ると思うがな。そう言ったら部員全員から鬼だと罵られた。三橋までも俺を見ていた。馬鹿野郎勝手にしろ、俺は思ったことを言ったまでだ。
「あれ、しのーか」
 水谷の声で視界を動かすと、校舎の上から大きな麦藁が移動するのが見える。姿が見えるわけではないが、あの帽子は彼女以外にはありえなかった。水谷はその帽子が遠くに行くまでそれを眺めて、それからゆっくりと振り返った。まだ双眸は動揺を隠せていない。
「…ばれたんじゃなかったの?」
「ばれたよ」
「え、」
 つまりこの状態でも彼女は自分の行動を辞めるつもりもないらしい。結論はそういう事だ。ほら見たことか、だから言ったんだよ。
「俺らはどうするの?」
「好意に甘えればいいだろ」
「阿部なあ…」
「俺もそれで良いと思う、しのーか、グラウンド好きなんだ」
 田島の声が凛と響いて、俺たちは視線を向ける。当の本人は見えずらくなる麦藁を追いかけていた。好きなんだ俺たちと一緒で。それでいいじゃないか、それが篠岡だろうが。大して知りもしないマネージャーだけど、繋がる共通点、お互いに胸を締める野球への感情。多分俺らに負けてない。花井は頭を数度掻いて、困ったように溜息を零した。夜にやらないように、ってので譲歩する。そう呟いて主将が腰を上げると、倣った様に全員が立ち上がる。一番に駆け出したのは田島だった。残ったクラスメイトは一瞬呆けたがそのまま後を追う。空の弁当箱を握り締めた手に、ぐっと力を入れた。
 先頭を走っていく田島が、階段を駆け下りながら言う。
「おれ、大好きなんだ」
 何をとは聞かないでおこうとおもった。



あの子、この子