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 悴んだ指先を擦り合わせる。時に息を吹きかけるなど、色々な趣向を試してみるが全て無駄に終わっていた。白く濁った空気が唇が漏れていく。冷たい何かに乗っ取られてしまいそうだ。そんな彼女の気配をひとつひとつ捉えては同じようにしてみる。うん、何の効果もない。毛糸の手袋のひとつでもあれば何か違ったのかもしれないが、寒気に触れたままの肌は氷の様に悴んでいた。こういう日はやはりあの日を思い出す、さほど昔とはいえない記憶が心臓を締め付けるようにして俺の心を嬲っていた。
 以前、一組の手袋を片方ずつ、左手、右手とはめて、彼女の空いた掌を俺の手と一緒にコートのポケットに入れて歩いたときがあった。お互いの微かな温度とか微かに感じる彼女の心拍数とか温度とか、ふと微笑んだ口元を隠すこともなく俺達は帰路を歩いていた。俗に言うバカップル、しかし数秒後それは唐突に幕を下ろす。格好の付かない話だが、俺が躓いたのです。それはもう盛大に何もない場所で、爪先がよろけてアスファルトへ一直線でした。何がいけなかったというと、両手共に、俺はコートのポケットに手を収めていたし、そのせいで受身すら満足にとれなかったし、一瞬忘れましたが彼女の掌も俺の掌と同じところに収まっていたという話で、あろう事か彼女は手を振り解くことすらせずに、俺を支えようと自分から下敷きになったのです。結果、彼女は強く頬や肩を打つ付け、次の日に顔に大き目の絆創膏を貼らざるを得ない状況へと繋がりました。(強いてあげるなら自身の体重よりも俺の重さ)、横転した先に見えた無機質なコンクリートほど、恨めしかったものはない。かくゆう俺はひとり無傷だったわけで、だからといって彼女は俺を攻めもせず、他の部員に何と問われようとも堅く口を閉ざしていた。俺はそんな彼女を見て、一緒に取り付くおうと笑おうと心がけたけれど、それを彼女が望んでいることが気配でわかったけれど、どうしても上手く笑うことが出来なかった。
 ぽつ、肩口に落ちた雪に意識が戻ってくる。いつの間にか俺を窺っていた篠岡は神妙そうにしていた。焦点がぼやけていた、なんという事だろうか。そして徐に紡ぐ。
「手をつなぎたい」
 思わず顔を顰めてしまった。だって、君の頬にはまだ薄っすらと痣が残っているというのに。極力平静を保ったまま声を出すと、予想以上に低い声が出た。
「………だめでーす」
「なんで」
「なんでって」
 怪我したくないからかな、だって俺、野球部員だし。こんな時饒舌になれる自分に心なしかエールを送る。まるでく彼女の双眸を、ほっぺを見ないようにして、薄闇に覆われそうな空を見て、軽い眩暈がおきた。緊張感の漂う静寂に、ぐ、と息を呑む。彼女の指が俺の服の裾を掴んで、それを振り払うことも受け入れることもできない自分があまりに滑稽に思えて。
「今日くらい、良いでしょう」
「…今日だから駄目なの」
「じゃあいつならいいの、明日なら繋いでくれるの」
 どうして、どうしてそんなに。手を繋がないまま、彼女は緩慢に俺の裾を引いた。双眸が瞬く間に、手近なバス停のベンチに俺を誘うと、今度こそ肩を掴んで俺をそこに座らせられる。目の前に仁王立ちになる彼女に、ようやっと表情が見えた。泣きそうな顔をして、どうしたの。俺だって、泣きそうなことに気付いてて、けど、だからこそこんな状況に陥ってるのかもしれない。
「歩かないなら、握ってくれるの?」
 視界が揺れたことを誰が責められよう。人目など構っていられなかったし、ただ、力いっぱい君を抱きしめた。篠岡から振ってきたのに、君は音をたてたように固まって、その顔を赤く染め上げた。彼女が落ち着いた頃にでも言ってみようか、春になったら、また手を繋いで歩くのも良いかもしれない。例えば君の生れ落ちた日がいいね。今日のこの日を思い出せるだろうから。




HappyBirthday!humiki!